第七章
【絶望】
ドアを開けると、眩しい太陽の光が飛び込んできた、波の音が聞こえる…しぶきを上げ波は光り輝き、海鳥が遠くで鳴く。
船は揺れ、波をきって進む。だが健二の心を捕らえたものは太陽の光でも輝く船でもなかった。
裸の男たち…。
日に焼け逞しく青い目をした男たち。それは芸術品に近いものがあった。
サンサンと降り注ぐ日差しに彼らは浅黒い肌をしていて、むき出しにした上半身はギリシャ神話の英雄か、その彫刻の様な体付き。
体中の筋肉が盛り上がりそれでいて締まっていた。本当に、完璧な体の見本といったところだ。これ以上見事な筋肉はなかなかお目にかかれない。
そんなガタイのマッチョたちが40、いや50人はいるだろうか。
快晴の青い空の下そろって全員トレーニングをしているのだ。
先程の薄暗い船内とは大違いだ。それは何とも迫力のある光景だった。
しかもそのトレーニングがいかにハイレベルなものかが見て分かる。
健二たちが立っているのを見て一人の男が近付いてきた。
「オマエ、ニッポンジンカ?」
「そ、そうだ!」
ボコボコに殴られ、戦意喪失してるブライアンを見て…、
「マサカ、ブライアンガニッポンジンニ負ケルトハナ!」
「小僧、教えてやる。ここは選ばれた闇ファイターの戦士だけが集まるアメリカ海軍特殊部隊の船だ」
さらにデカイ、そして引き締まったガタイの男が現われた。
一目で「こいつは格別」という印象を与える男だ。
日に焼けた肌におもむろにくわえたゴツイパイプ、でかいサングラスニヤッと笑った歯がやけに白くて、不気味な感じを与える。
妙にうまい日本語が顔に似合わず、体付きはとにかくマッチョで太い腕にはイカリのマーク、水兵パンツを履いている。
「ここに大佐と呼ばれる男はいるか!?」
「大佐はオレだ」
男が吠えた。
太く腹に響く声だった、健二は一瞬嫌な予感がした。それは絶望の前触れだったのかもしれない。
「俺は坂本アキラに雇われた喧嘩屋だ。あんたを倒しにきた」
「そうか、マイク、相手をしてやれ…」
「…?」
「ウッス。ほら、ボーイ。かかって来な」
と、また別の男が現われた。
こいつもなかなか日本語がうまい。しかも随分軽いタッチで喧嘩をふっかけられた。
(ふざけやがって…)
マイクと呼ばれたその男は野郎くさい髭を生やしたゴツイ黒人で、着ていたベストから抜き出た肩の筋肉が異常に盛り上がった一目で分かるパワーファイターだった。
「はっ、シッ、オラッ!」
健二は…ジャブ、ジャブ、フック!右ストレート!
まずは様子見…。軽いフットワークで相手の出方をみる。
「小僧、軍人をなめてかかると痛い目見るぞ」
マイクは急に目つきを変え、素早い動きで健二の後ろを取った!健二の右手首を掴むと、後ろにひねり、
ボキッ!!
鈍い音とともに、健二の右腕の肩関節が…外された!
「………!?」
(な…なに、を…)
さらに…、
ゴキッ!!
マイクは手を変え…左腕も見事に外した!
「うわああーっ!!」
激しい痛みは一瞬だった。不思議とそれほどの激痛は続かない。だが健二の心が恐怖に染まる。
(腕が………動かねえ)
まったく両腕が言うことを聞かない。
ぷらんと情けなく脇にぶら下がっているだけだ。そしてマイク少佐が懐に飛び込んでくる…!
ボスッ!ドフッ!ズボッ!
「うっ…ううっ…うううっ!…げほ」
素早く踏み込んで、マイクは健二のボディを打ち放題!パンチを連打連打連打!!
丸太のような太い腕から繰り出されるパンチは一発一発が重く、健二のヤワなボディに突きささっていった。
余裕の軍人を前に、情けなく健二は外された腕をだらんとさせている、まったくガードは出来ない状態だ。
ドボオッ!ズンッ!ズンッ!ボスッ!ボムッ!!
「うっ……うおっ!はああぅーーっ!!ゴフ…くっ…ふっ…ううっ!」
悶える健二、さっき嫌と言うほどブライアンに食らったボディをまた!!
「どーした?殴り返してみろよ」
「あ…ぅ……おお…」
(もうボディは食らいたくねえのに…)
赤く腫れあがった腹をかばいたいのだが腕は動くはずも無く…、
ドスッ!!
「げほぉ…っ!」
またボディ!
「これが本物の戦闘技術だ!」
ボディ!
ドボッ!!
「ふおっ……!」
「日本人が…お前らみたいなヒョロい人種がファイトする事じたいムカツクぜ!どーだ?何とか言ってみろよ」
「へ、へへ…も、もう終わりか…海軍のマッチョ兄ちゃんよお……オレの腹は、始まったばかりじゃ…ねえか…。これから…だぜ、もっ…と打ってこいよ!オラ!疲れたのか?」
と健二はペッと唾をマイクの頬に吐きかけた。
「……バカが」
ドフッ!ズドンッ!!ボスッ!!!!
ボディボディボディーッ!!
「はぅ!!…はぁはぁ……おおぅ!!…げ…げえぇぇぇ…!!!」
それは最後のハッタリだった。
健二にはもう、耐える体力もやりかえす気力も無いくらい弱りきっていた。
スタミナが完全に奪われてしまってサンドバッグと化していたのだ…。
「……ぁぁ」
ジリジリと照らす太陽の下、殴られ、また殴られ、殴られ続ける男…。
それを囲む裸の男たち、肌は焼け、汗はしたたり、本当に暑い日だ。
ドボッ!ボスッ!ズムッ!ドフッ!
辺りに鈍い、鈍い音が響く。嫌な音だ。まるで大きな生肉をハンマーか何かで叩いてる音だ。
健二はうすれていく意識の中で、
(今回だけはマジでやべえ…。殺される…チクショー、こんな野郎に…)
いくら動かそうとしても、ぷらーんと壊れたオモチャの様に健二の両腕はぶら下がったままだ。
「ボディ!ボディ!ボディー!」
「げぼぉ、げぼ、げぼおーーっ!!!」
膝を付く健二、
「終わりにしてやるよ」
右フック!
ダンッと音を立てて健二はダウン、その衝撃で右肩に痛みが走る!
「うわああああああーっ!!!」
だが…。
その時、偶然外れていた右肩が入り、治ったのだ!
「かっ…はあっ!はぁはぁ…はぁ……!」
健二は何とか、もがいて少しでも遠くにいこうとしたが、
「死にぞこないが…」
シャツの胸ぐらをつかまれ、無理矢理起き上がらされた、いや実際には引き上げているだけだ。
手をはなせば健二は床に崩れ落ちるだろう。
ドボボォォォォォォーーー!!!!!!
またもやボディが決まった!健二の体は、高く舞い上がり、
「………!!」
ダンッ!と大きく前のめりに床に叩きつけられた音がした。
「うがああああーーーっっっ!!!!」
これは効いた。とてつもない痛みが健二を襲う!
「はひっ…!はぅ!はぁはぁ…ハアアア…!」
だが何とか必死で立ち上がり、体を支える。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
(……くっ……チャンスは一度だ…)
「上等だ、まだ殴られてえのかっ!」
マイクは突進してきた!
健二はうまくタイミングを見計らい、必死のカウンターパンチ!!!
バコォォッッッッッ!!!!
「う…っ………」
油断してたのもあり、かなりジャストミートでマイクの顎にヒットした!…マイクは鼻血を出しながら、起き上がらなかった。KOしたのだ!
「はあはあ…はあはあはあ…はあはあはあはあ……!!」
素早く荒く呼吸をして何とか回復する。
「お…オレが、はぁはぁはぁ…ぶっ飛ばし…てえのは……テメーだコラ!!!」
とテリー大佐を指差してガンをつける!
「そんなボロボロの体でオレに立ち向かうなんていい度胸だ」
もはや健二に残された体力は無かった…だが闘わなければならない!男のプライドにかけて!
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