ロゴ 更新日:2003年11月08日
Text :小説(魔沙斗−第五章)
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第五章
【逃れられない男の意地(プライド)】

試合当日、ファイトは地下のバーで行なわれた。かなり広く、リングもしっかりしている所だった。
騒がしい店の中、興奮した観客たちはすでに出来上がっていた。
幾つかのファイト後、健二の番が来た。シャツを脱ぎ、上半身ハダカにボクシングトランクス一枚になる。
健二はこの数週間でかなり鍛えあげた。
胸や腹筋、腕の太さ、筋肉の締まりが見違えるほど格闘家の体になった。
足にはボクシングシューズ、手には白いバンテージ。
反対側のコーナー瀬川がいた。あきらかに健二よりも一回りデカイ!
黒のタンクトップを窮屈そうに脱ぎ、迷彩柄のズボンにごっついブーツ、同じく手にはバンテージ。
健二はまず対戦相手をじっくりと観察した。
瀬川亮・セガワリョウ……茶髪で顔はなかなかの男前だが体格は、
一目見てガッチリとしたラグビー・アメフト体系。ガンと張ったデカイ肩の筋肉に広い肩幅、
そのわりにキュッと引き締まったウェスト。超逆三角形のボディラインだ。
ヤツのゴツゴツの背中は質のある筋肉の塊でできている。
大胸筋はパンパンのビルダー系マッチョ、あのぶ厚い胸板は何cmあるのだろう。
110?120?いや、もっとか…?そしてヤツの腹筋はきれいに割れたシックスパック。
下手にボディを打てばこっちが拳を潰されそうだ。
さらにマウスピースが似合ういかつい日に焼けた浅黒い顔。
どれを取っても筋肉野郎、最高のボディだ。その瀬川リョウが今、マット中央で健二を睨み殺そうとしている。
健二はまだこの怪物と闘うという実感が無い…。
これから始まるファイトが最大のサンドバック・ショーになる事にまだ気付いていなかった。


「来いや」

野太い声が健二を挑発!健二は負けじと、


「やろうぜ…」

お互い拳をガツンと合わせた。
カーーーン!
ゴングが鳴った。試合開始。この闇ファイトは普通よりランクが上の闇ファイトなので安全の為のグローブは無い。
素手の拳にお互い白いバンテージを付けているだけだ。
リョウは慣れた手つきでファイティングポーズをとり、軽いステップで健二を挑発する。健二もかまえるが、


「…何だ、お前ファイトは初めてか?」
「……!」
「拳の握り方がぎこちないぜ。残念だったな、初戦の相手が俺で。俺は手加減知らねえからな」
「んだと、なめんな!」


健二のジャブ!ジャブ!ジャブ!!


「おいおい、それでパンチを打ってるつもりか?ガキが、本気で来いよ」
「おらっ、くらあっ!っ!……はぁはぁ」

健二のパンチを軽くパアリングで受けるリョウ。

「ハッ、駄目だなぁ…ただ、がむしゃらにパンチを打ってるだけじゃあ…」

健二のパンチをウィービングで軽く左右にかわす瀬川リョウ、
その体格からは信じられない程の俊敏さで、プロボクサーも驚く程の動体視力と反射神経だ。
昨日今日ボクシングを知った健二など、まるで子供扱いでいる。


「…っ…く…そっ、はぁはぁ…」
「もうネタ切れか?じゃあ今度はこっちから行くぜっ!オラッ!」


ドゴッ!ズゴッ!!


「うっ!!」


鈍い音が響いた、ガードした上からパンチを受けた健二は体ごと吹っ飛ぶ。
(何て重いパンチだ。ガードしてる手が痛ぇ!まるで…重戦車だ!こんなモン、モロに食ったらマジに殺される…!!)


「どうした諦めたか?それとも本物のボクサーの強さにビビったか?」
ボグッ!ズンッ!バコッ!ドムッ!!
ガードかいくぐってたまにヒットする瀬川の重いパンチ。
フック、アッパー、ボディ!防戦で、コーナーに追い詰められ、苦しい健二、ダウンは時間の問題か?必死でパンチを出してみるが…。
バキィッッ!!
カウンターに鋭い右アッパーが健二の顎に当たった!


「うっっっっ!」


体を大きくそらし、隙だらけのその一瞬…。
ズドドーーーンッッ!!!!


「ハウウッッーーー!!!」


がらあきのボディに、瀬川リョウ、必殺のタックルからの頭突きボディブロー!!


「バカ、あの野郎…気をつけろっつったのに…!」


健二のセコンドについたマサトが言った。リョウはその一瞬の隙を逃がさなかった、
ラグビーで鍛えた体重のしっかりかかった鋭く重いタックルで健二のボディをめり込ませる!!




「う、ご……」
「どーだ、ラグビーのタックルなめんじゃねえぞ」


健二は目を見開き大きく体をくの字に曲げて、両腕をロープに乗せ、丁度コーナーで休んでいるボクサーの様な形になった。
そして、次の瞬間、健二に凄まじい腹の痛みが押し寄せる!


「う、ぐ、げぇ、げぇぼおっ!!」


(???…痛え!キツイ…!…キツ過ぎる…)
これはかなり効いた攻撃だ!今までに無い凄まじい痛みが走る!


「うっ…」


健二はリングの外に嘔吐しそうになる。だが出るのは胃液だけ。客からはブーイングが飛んだ。


「オラ!何やってんだよ!」
「汚えな!このヤロー!!」

だが、


「はあっ…はあっ…!!」


健二はそれどころではない。体の中からかき乱されるような嫌な痛み。
横隔膜を激しく引き上げ必死の思いで息を吸い込む。

「どうした?オラ」と言葉を吐き捨てて、リョウのキック!


ズボムッ!!


「ううっ……!!」


四つんばいでリングを這いつくばっている健二に容赦無い蹴りが飛ぶ!弱々しい健二の声がもれる。


「……ぁ…」


ドゴオッ!!ズシィンッ!!ドゴスッ!ガスッ!!!ゴッ!!


「うがああああっ!!」
(こ、殺される……)

これは遊びじゃない、試合でも無い、オス同士の殺し合いだ。
健二は自分の置かれている状況に気付き、我に返った。やらなきゃやられる……デスマッチだ!
蹴りの度にもれる叫び声。必死にのたうち回り這って逃げようとするが、体を動かす度に激痛が走り、リョウの太い筋肉の塊の足が飛んでくる!
背中や腹をメッタ打ちにされてリング中央でうずくまる。とうとう蹴りに飽きたリョウは健二の髪をつかみ無理矢理立たせた。リョウは、


「立てよ、オネンネにゃまだ早いぜ、オメーも男なら、男らしく立って闘いな!」
「くっ…」


息をきらし、健二はボロボロになりながらも必死で挑発的な目で見返す。

(テメ…このやろぅ…)
だがヤツの太すぎる二の腕がまた健二のやわなボディを突き上げる!!

ドズンッッ!!


「ふごおぉっっ!!」


一瞬、体が宙に浮き、健二の顔が苦痛にゆがむ。
腹筋に力を入れる暇も与えない、健二の腹にめり込んでリョウの拳はまったく見えなくなっている。


「やわなボディだな」

メリメリメリ…。反撃を恐れず、リョウはさらに深く拳を突き上げる!


「どうやらボディが弱ぇらしいな」
ダンッ!

とマットを鳴らして腹をおさえた健二の前のめりからのダウン!「どうだ?ボディでノックアウトされる屈辱は、ハッハッハッ…!」
高らかに笑い、余裕の表情のリョウ。興奮し、ギャラリーに向かってマッスルポーズを見せ付けている。
観客も喜ぶ。一人リングの中央でもがき苦しむ健二。

(うおおおお……)
(このまま寝ていよう……それで殺されずにすむなら…)

しかし次の瞬間、健二は観客の中に内藤を見つけた!
(内藤さん…)
内藤は周りに何人もゴツイ男に囲まれ、顔はボコボコにされた跡が見える。後ろで両手を縛られているのか、じっとリングを見ている。
(先輩…!)
健二は思わず立ち上がってしまった!内藤の方に歩み寄ろうとするが、


「まだ立てたのか…?」
バキッ!
瀬川の右フックが健二の動きを奪う!


「おい、随分元気だな、もしかしてオメエ、俺が恐くてわざと寝てたのか?なめてんのか!この根性無しが…」
ドスッ!

「ほら、打ってこいよ」
ズムッ!
連続のボディ!
「がっ…は、はぅ…」「なさけねえな、殴り返す気力もねえのか?男だろーが!」
ズンッ!
「…お、うっ」
(もう…ダメだ…)
「打たせてやったからよ!」
ボスッ!

余裕のツラで睨むリョウ。まるでボクシング経験の格が違う事を体で教えこもうとしているようだ。
徹底的に痛めつける気らしい。健二はロープにもたれながら両腕で必死に腹をかばう。
(これ以上まともに食らったら間違いなく死ぬ…)
さっきから余裕のノーガードでブンブンと腕を振り回すリョウ。


「亀みてえに丸まってんじゃねえ!」
バコッ!!
突き上げるアッパー!顎にもろ、思わず体が浮き上がる。
(うわぁっ!)

反射的にガードを上げる健二、
(しまった…)

そう思った瞬間、二度目のラグビータックルが健二のボディを襲う!!
ボムッッ!!
(うがぁぁっっ!!!)

声にならない叫び、痛み、折れ曲がった自分の体、目の前にいるマッチョな強敵。
レベルが違いすぎる事は誰が見ても明らかだ。見た目でも健二は16歳にしてはかなり頑張って鍛えて筋肉がついていると分かるが、
それ以上に瀬川のガタイが尋常じゃない。大きく盛り上がった首の筋肉、腕、足。
どこをとっても見事なマッスル野郎の体である。
二人がリングに上がったときから、どういう闘いが見れるのかではなく、
どう健二がこのマッチョ男にボコボコにされるのか、という事が誰にでもすぐ見て取れる。
そのマッスル・リョウはさっきから余裕でノーガードのままファイトをしている。
そして今にも倒れそうなフラフラのファイター・健二に近付いていった。
近くで見るとさらに迫力あるリョウのガタイが健二の闘争心を失わせた。

(すげえ、なんて分厚い胸板だ…。そしてぶっとい腕…。それから立派な腹筋と背筋に…)
じっくり見ていると、いかに自分が鍛えていないか、無駄なファイトをしているかがわかる。(適うわけがない…)


「ガキが、楽にしてやるよ」
リョウはとどめの一発に顔面パンチを打った、だがギリギリのところで健二はかわして避けた。

「まだやるつもりか?勝ち目も無いのに」
「……」

だがまだファイティングポーズをとる健二。

「面白え、まだ楽しませてくれるのかよ…おし、少し打たせてやらあ、来いよ」

リョウは余裕のノーガードで健二に打ってこいと挑発。
健二はありったけの力を振り絞ってボディブローを打った

ドコッ!
「おお、痛え」
もう一発!
ズンッ!
「どうした?もっと来いよ」
ボスッ!
「かゆいぜ…」

リョウのガッチリしたガタイに健二のパンチがめり込む!だが余裕のリョウ。その時…。
バキィィッッ!!

健二の見事なアッパーが決まった!

「うっ…」

リョウは足をグラつかせ後ずさりした。
(…少し手ぇ抜きすぎたか…。油断したな、結構パンチがあるじゃねえか、このガキ)
「なかなかいいパンチ持ってるじゃねえか」

健二は攻撃をやめない。
バキッッ!
今度はストレート!
「くっ…」
ドフッッ!
脇腹にボディ!
「ちょ…」
ズバンッ!
ボディ!!
「ま…て」
ボグッ!
ボディ!!! 「うおっ!」
ボディが効いて、腹をおさえて苦しい顔のリョウ、慌ててガードを固める。
「この野郎…。手ぇ抜いてりゃあ、いい気になりやがって!ぶっ殺してやる」

怒り狂ったリョウの連打連打連打!!
ガードをして耐える健二。だが…カウンター!!

「うっ!」
ボディーー!!!

予想外の攻撃にリョウの動きが止まる。
ボディボディボディ!

「はううっ!」

連続ボディブローにリョウが思わずうずくまる。
(こんなガキのパンチが効いてるだと…)
「ざけんなぁっ!」 ドボォッッ!!

リョウの必殺・頭突きブロー!またコーナーに吹っ飛ぶ健二。
(決まったな、手応え有りだ…)

地獄の苦しみが健二を襲う!腹の筋肉が悲鳴を上げ、激痛が走る!だが…。


「…っ…くぅ……オラアッ!」
ドスッッッ!!!
タックルしてきた、そのリョウの腹にボディ!

「がっ…?げぼぉ…!」
(な…に…。こいつ、どこに…そんなパワーが…)

腹をおさえてリングに音を立てて倒れこむリョウ。鍛えぬかれたその体も動かなくなっていた。健二が勝利したのだ。

「どうだ?ボディでノックアウトされる屈辱は…」




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